ダイナベクター507MKUの高感度アームで最高の性能を発揮出来るカートリッジといえば光悦カートリッジ以外には存在しないのではないかと思います。画像は初代光悦さんが長年温存していた原石から切り出した気泡の全く無いヒスイケースで、間接音の再現に長けたトレース能力の高いボロンカンチレバー+プラチナマグネット+WE
OLD WIRE 仕様というスペシャルバージョンカートリッジです。しかしながら、あまりの高分解能&超ワイドレンジカートリッジ故に、少し古い録音のオーケストラや管弦楽などを再生した際、音楽の一体感のようなものが再現されにくいと感じることが有ります。言い換えれば少しコンプライアンスの低い古い設計のカートリッジの方が50〜60年代前半頃のモノラル→ステレオ移行期あたりの録音をそつなく再生してくれるということなのかもしれません。とはいってもこの手のカートリッジでは残響の長いバロック系オーディオファイル盤などを再生した際もう少し分解能が高く間接音の表現力が上がらないものかというもどかしさが有るのも事実です。このような観点からすると光悦製メノウ&ヒスイタイプのようなハイスペックカートリッジではアナログレコードの黄金期ともいえる60年代末期から80年代初頭頃のいわゆるオーディオファイル盤的高音質録音盤あたりの再生に的を絞った方がより一層面白い気がします。いずれにしても、小手先のごまかしなど一切受け入れてくれないオイロダインKl
L439+平面バッフルという類い稀なるスピーカーシステムを使い続ける限り、繊細で残響の長いバロック系の再生において独壇場ともいえる程のリアリティーを発揮するスペシャルバージョン光悦カートリッジを否定することは出来ないのです。
POWER AMP/SPEAKER BAFFLE このシステムで使用しているインシュレーターやルームチューニング材は全てオーディオリプラス製ですが、狙っている音の方向性が同じであることを前提にするならば、物理振動をコントロールするためのアクセサリーやルームチューニング材の選定は基本的に同一メーカーのものを使用することの方が理にかなっていると思います。私の装置ではカートリッジ用シェルやカートリッジスペーサーから始まって、アームベース周りやモーター支持フレーム、ターンテーブルシートにレコードスタビライザー、進相コンデンサーユニットの台、角型中空アングルラックの足と各棚板の接地面、信号系の全ての機器の設置にオーディオリプラス製水晶インシュレーターを使用しています。
NOISE SUPPRESSOR
電源ノイズや微小信号回路への電磁誘導ノイズなどありとあらゆるノイズがHi-Fiオーディオ再生に悪影響を与えます。私の装置ではEMT 930へのAC供給ライン、PREAMP
& POWER AMPへのDC供給ライン、その他にPHONO CABLE、SPEAKER CABLEなど合計7ヶ所にオーディオリプラス製CNS-7000SZノイズスタビライザーを使用していますが、どの接続ケーブルに使用しても音の粗さが無くなり穏やかな傾向の音になります。このような傾向からすると周波数レスポンスがそれ程良いとはいえない装置や少々高域が暴れ気味な装置では本製品の導入によって「音に覇気が無くなった」などの誤った印象を持たれる方もいるかもしれません。数か所に使用してみた経験からするとこの手の音質改善アイテムやルームチューニング材などの適切な使用では間違いなく分解能が上がり且つ大人しい傾向の音になります。
PREAMPLIFIER
WE 417A-WE 404A-6AB7-INT-4D22pp-6Kpp:600Ω/35W Output Trans の4段構成プリアンプです。比較的大がかりなプリアンプで高圧整流ユニット、高圧電源フィルターユニット、ヒーターDC点火回路は全て別シャーシで構成されています。エネルギーレスポンスが良く実在感とプレゼンス感に優れたハイファイプリアンプの実現には「F特が広くハイゲインで有りながら音楽的SN感に優れた付帯音の少ない前置アンプ」という到達点を目指すことにそれ程異論はないと思いますが、そこがプリアンプ製作のむずかしさでもあり面白さでも有ると思います。確かに微小信号部分を多く含む大規模なプリアンプの構築には、ある程度の経験値や臨機応変な対応力が必要となるのは当然ですが、マランツやマッキントッシュなどの既製品やWestrexやWE系ラインアンプを改造したガレージメーカー製プリアンプなどにこれぞという程のものが皆無という現状を踏まえた上でのチャレンジですから、千里眼的パーツ選びなどの入念な計画性は当然のことながら、長期の継続的構築意欲が必要となることは致し方のないことかもしれません。
それにしても、これほどのアナログブームが到来しているご時世にもかかわらず、オーディオ専門誌や技術雑誌などにこれぞと思う程の真空管式アナログ再生用プリアンプなるものの製作記事が全くといっていいほど掲載されないというのも不可解なことです。嘗てはビンテージオーディオ界の牽引役とまでいわれた日本のオーディオ誌に溢れんばかりの製作記事を投稿されていた諸先輩技術者の皆さんには今一度奮起して頂きたいものです。
MATCHING TRANS こちらはパワーアンプに接続するマッチングトランスとして製作したものです。私のアンプはプリもパワーも比較的ハイゲインなためトランスのレシオ比を高く取る必要がありませんので5倍程の昇圧比(600Ω:15KΩ)で製作しました。このトランスのコアはWE201型インプットや61A/B
RETなどを解体したものです。今回はケースによる音の違いを確認するためにWEトロイダル型トランス用鉄ケースに封入してみました。このトランスの最も魅力的なところはF特が広く誇張感のないニュートラルな音楽表現をしてくれるところです。入力系トランスについて少し余談になりますが、インプットトランスではレシオ比を大きくしたもの程トランス特有の癖の強い音の傾向になります。L分によって構成されるインピーダンス変換回路では真空管増幅のような直線性の良さやフラットな周波数レスポンスを持っているわけでは有りません。それはしばしばトランスの2次側を純抵抗でシャントしてF特を平坦化する必要が有ることが、如何にトランス自体がフラットな特性を有していないかを表す根拠のひとつです。ちなみにWEなどの古典アンプ(主に劇場用アンプ)ではインターステージの2次側をシャントしない場合も有りますが、内部抵抗の高いひ弱な球でドライブする場合や高域特性のそれ程良くない装置において特定の周波数帯を持ち上げることで人の声などの明瞭度を上げようと意図している場合も有ります。嘗ての技術誌などではインターステージトランスの二次側を純抵抗でシャントする必要が無いトランスがさも優秀かのようなくだりが有りますが、ひ弱なドライバー管との組み合わせでは十分なドライブ電圧が得られにくいことから、特性が悪くなることは承知の上で敢えて昇圧比を大きくし、スイング電圧を確保するという必然性により二次側をオープンとせざるを得なかったという回路設計上の都合によるものだと理解出来ます。いずれにしても、このような意図的な周波数特性のイコライジングが、本来私たちが目指すハイフィデリティー再生に対する考え方とは少し違った方向だということも認識した上で可能な限りフラットなレスポンス特性を持つ再生装置の構築を目指さなければならないと思います。
POWER AMPLIFIER
本アンプは新しく製作し直した6AB7-6AG7-INT(WE201 CORE)-4D32pp-5Kpp:0-8-16Ω/50W Output
Trans の3段構成で+B供給用電源には371Bと705Aをパラレル接続にしています。4D32というパワー管の凄いところは、一般的な認識として「図体の大きな球は大雑把な音がする」という定説をいとも簡単に覆してくれるだけのF特の広さと繊細さ、緻密さ、エネルギーバランスの良さなど、音楽再生に必要な増幅管としての全てを備えているかのような気にさせてくれるところです。もちろん前段を構成している2本のメタル管も並みの電圧増幅管ではありません。内部抵抗が高くプレート電流が僅かしか流せないWE系ST型電圧増幅管や音の粗いマグノーバル管、双3極管特有の混濁感が我慢ならない396AやX7系などは元々選択肢に有りませんが、比較的マトモな音のするKEN-RAD
6C5(METAL管)や6SN7GTなどの3極管がことごとく寝ぼけて聴こえてしまう程本機に使用しているKEN-RAD6AB7や6AG7の3結は色付けが少なくパワフルでシャープな名刀の切れ味のような音がします。要約すれば物理振動が少なく直線性に優れた単5極管を3結で使用することで、並みの3極電圧増幅管とは桁違いの広帯域特性と強力なドライブ能力を兼ね備えた前段増幅回路を構成することが出来るということなのです。ちなみに、ドライブ段に内部抵抗の高い球を使用した場合パワー管よりも先にドライバー管がクリップするなどという笑うに笑えない結果にもなりますから電圧増幅段のゲイン配分や使用球には十分な配慮が必要となります。WE系アンプのように同じ真空管を前段に使用する目的は業務用としての管理の容易さと現代のオーディオソースよりも遥かにダイナミックレンジの狭いフォトセルなどの微小信号を扱うことを目的としている為であることから現代のオーディオ再生装置としてWEアンプを模倣製作する際は十分考慮すべきことと思います。かといって嘗て雑誌などを賑わせたことも有るドライブ段にパワー管を持って来るなどという回路構成では一聴して馬力が有るかのように聞こえるが、音が粗くて聞くに堪えないというのが私の感想でした。このことはインターステージトランスの一次側に直流を重畳して馬力が出たなどと誤解をしているのと似ているかもしれません。なお、本アンプで使用している6AB7や6AG7のG3はカソードに接続していますが、一般的な真空管アンプ製作記事などに掲載されることの多い6J7や6SJ7、WE310A、348AなどのG3をプレートに接続する回路では明らかにドンシャリ的な音になります。
HIGH VOLTAGE +B SUPPLY 一般的な真空管式オーディオアンプでは両波整流管1本で電源供給をしているものがほとんどですが、当店で製作するアンプでは必ずといっていいほど複数の整流管を使用しています。以前の記述内容と重複する部分も有るかもしれませんが改めてB電圧電源について述べてみたいと思います。個人的にも20〜30代頃まではWE274A/Bや280(ナス管)が最も良い音のする整流管と思い使い続けていた時期も有りました。その後WE
46アンプなどを使い始めると直熱3極管205Dを2極管接続にして半波整流管として使っているのに驚き、何故このような使い方をしているのか?と思いきや何のことはない内部抵抗の高さが整流ノイズ抑制効果としての役割も果たすことと、緊急時のスペア球の確保が容易という理由だったのではないかと考えられます。もっとも、整流管製造の難しさもさることながら、内部抵抗の高い205Dなどの直熱3極管を整流管として使用すれば当然ながら音も良いということで一石二鳥とはこのことだと納得しました。その後に開発された274A/Bや280などもオキサイド型両波整流管の中では比較的内部抵抗の高い整流管ということでそれなりに素性の良い整流管といえますが、それはあくまで一般的なアンプに使用する標準的なという意味でのオキサイド型両波整流管に対する評価であって、トリタン型整流管371Bや705Aなどの付帯音の少ないハイスピード半波整流管との比較ではありません。オーディオアンプの質的向上を目指すプロセスの中でほぼ間違いなく電源回路の不備がネックになることは多くのベテランオーディオ愛好家諸氏が痛感されているであろうと思いますが、願わくばタイミングを失することなくヒーター点火方式を含めて電源の重要性を再認識して頂ければと思います。さて、一般論はこのくらいにして、当時の受信管(ラジオや家庭用電蓄など)としての使用ではオキサイド型両波整流管1本で十分な性能を維持できたということのようですが、はたして強大なダイナミックレンジを有する現代のHi-Fi
オーディオ装置にもそのままの形で採用するだけで十分なのだろうか。例えばひとつの例として、通常の管球式オーディオ装置で音量を上げていくと低域が膨らみ中高域の分解能が落ちて刺激的な音になってしまう症状は電源の供給スピードが間に合っていない状態に有るのではないか。この現象はパワー管が金魚鉢の金魚のように酸欠状態になっているのに似ていると考えられます。逆に満ち足りた電源によって構成されたアンプでは、それ程音質的評価の高くない真空管でも意外に充実したサウンドが得られることが多いものです。私が好んで使用するトリタンフィラメントを持つ高真空型半波整流管は、高温で熱せられた熱電子がハイスピードで増幅管にエネルギーを供給できるため金魚のような酸欠状態にはなりません。したがって、比較的広いリスニングルームでコンサートホール並みの音量でスケールの大きな音楽を再生しても低域が膨らみすぎることや刺激的な高域になることも殆どありません。要するに音量の大小によって周波数レスポンスや分解能がほとんど影響を受けないという安定感の有る再生音はレスポンスの良さを含めた電源の質に依存しているということなのです。このことはジャズなどの単一音量で比較的編成の小さな音楽ならいざ知らず、クラシック音楽などの繊細で変化に富んだ音圧レベルの演奏を再生する上では大変重要なファクターのひとつだと思います。ご自身のリスニングルームがちょっとしたコンサートホールに早変わりしたかのような気分で音楽を楽しみたいと願う熱烈な音楽愛好家の皆さんには是非ともトリタン整流管+チョークインプット電源回路の素晴らしさを実感して頂きたいものです。