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Vintage Audio Project

このページでは当オーディオ装置の構築プロセスや音質改善のための体験談などを通して同好の皆さんとの交流の場にしていきたいと考えています。
掲載記事内容などについてご意見やご質問が有りましたらこちらまでどうぞ Mail to SUZUKI ELECTRIC.


Update:10/8


EMT 930 TURNTABLE


EMT-930モーターを選んだ理由としては、バロック系クラシック音楽を再生することの多い私としては何としても光悦スペシャルバージョンカートリッジを上手く鳴らしたいという思いから、必然的にトレース能力の高いダイナミックバランス型トーンアームが不可欠ということでダイナベクターDV507MKUしかないと結論付け、このアームが使える高精度モーターはといえばEMT-930しか無いだろうということでの選択だったのです。しかし、このモーターを使うにあたっては進相コンデンサー&サープレッサー抵抗の交換と220V外部供給電源の導入が不可欠でした。標準装備の粗悪なMPコンデンサーとホーロー抵抗ではどうにもマトモな音にはならないので、3mm厚真鍮板とセラミック端子台を使用してCeramic Cap+Sprague Resistorによる進相コンデンサーユニットを製作しました。モーター駆動用の220V供給にはアメリカ製1KVタイプのトロイダル型アイソレーショントランスを100V:220Vで使用しています。


2024/8/28
色々悩んだ末930用進相コンデンサーの設置は上の画像のようになった。というのも信号系の全ての機器の設置方法をオーディオリプラス水晶+高純度アルミナボードとしたことにより進相コンデンサーの設置方法にも大きな変化があったからです。結局のところ抵抗やコンデンサーが取り付けられた6mm厚アルミナプレートを直接GR-SSの上に設置しその下にアルミナボードを敷くという方法になったのだが、これも試行錯誤の結果なので致し方の無いことではあるがいずれにしても進相コンデンサーの設置がこれほどデリケートな結果をもたらすとは夢にも思わなかったというのが実感だ。
2枚目画像はプレーヤーベースの設置にGR-SS+1.5mm ALUMINA PLATEを使ってみたところですが、私の装置では今のところこの状態がベストです。
2024/9/13 以前ターンテーブルベアリングを超高精度セラミックタイプに交換して劇的な音質改善が得られたので、今回はモーター側のベアリングを交換してみました。モーター左右の長ネジを抜き下側の軸受けカバー内部を見てみると何とフェルトに浸み込んでいるはずの潤滑オイルがカラカラに乾いているしボールベアリングのグリスも結構汚れている。今まで十数年使ってきたが一度もモーターのメンテナンスをやっていないので当然だとは思うが。いずれにしてもモーター内部までメンテナンスしている方はそう多くは無いと思いますので、5年に一度くらいはクリーニングを兼ねて開けてみるのも良いかもしれません。
作業はベアリング部分の内部をアセトンでクリーニングし、汚れを拭き取って新しいグリスを塗ったセラミックベアリングを入れ、フェルト部分に新しいチタンオイルをたっぷり含ませ元に戻しただけの簡単な作業です。ベアリング交換後数時間から数日のエイジングが必要となりますが、さらにローエンドが伸び中高域の分解能がグッとアップしますので結論を急がずに少々時間をかけて経過を見守る必要が有ります。


TURNTABLE SHEET & RECORD STABILIZER

情報量を減らさずに且つ余計な変調のかからない最も優れた素材ということを第一に考えるならばオーディオリプラス製水晶シート以外に選択肢はないと思います。また、アナログレコード再生に必要なセンタースピンドルで使用するレコードスタビライザーも水晶製が不可欠で、如何に着色の少ない信号をMCトランスやプリアンプに伝送するかという目的を達成するためにはターンテーブルシート同様極めて重要ではないかと考えます。
高周波領域で使用する水晶振動子に着目した人工水晶製スタビライザーやインシュレーター、ターンテーブルシート、カートリッジシェルなどは物理振動を可聴帯よりも高い共振周波数で拡散させることでオーディオ帯域に影響を与えずに効果的に振動を処理する方法として、これ以上有効な方法は先ず以って存在しないのではないかと思います。


TONEARM

スタティックバランス型アームの安定感のない音が嫌いな私としては、トレース能力が高く間接音の表現力に優れたしなやかさを持つボロンカンチレバーとプラチナマグネット&WEオールドマグネットワイヤー+ヒスイ&メノウボディというカートリッジ界のF1 CAR的存在のハイスペック光悦カートリッジの能力を最大限に引き出すための条件を満たすものとしてダイナベクターDV507MKU以外の選択肢はありませんでした。カートリッジ固定用シェルにはAudio Replas RHS-1HRを使用しカートリッジの高さ調節のためのスペーサーとしてRCS-25-SSを使用しています。
カートリッジの強大な物理エネルギーを最初に受けることになるこの部分に金属や樹脂系のシェルを使用したのではその材質の持つ共振点により発生する物理的振動がカートリッジが拾い上げた微小電気信号と共に付帯音として増幅回路へと流入してしまうことを想像してみて下さい。


MC CARTRIDGE

ダイナベクター507MKUの高感度アームで最高の性能を発揮出来るカートリッジといえば光悦カートリッジ以外には存在しないのではないかと思います。画像は初代光悦さんが長年温存していた原石から切り出した気泡の全く無いヒスイケースで、間接音の再現に長けたトレース能力の高いボロンカンチレバー+プラチナマグネット+WE OLD WIRE 仕様というスペシャルバージョンカートリッジです。しかしながら、あまりの高分解能&超ワイドレンジカートリッジ故に、少し古い録音のオーケストラや管弦楽などを再生した際、音楽の一体感のようなものが再現されにくいと感じることが有ります。言い換えれば少しコンプライアンスの低い古い設計のカートリッジの方が50〜60年代前半頃のモノラル→ステレオ移行期あたりの録音をそつなく再生してくれるということなのかもしれません。とはいってもこの手のカートリッジでは残響の長いバロック系オーディオファイル盤などを再生した際もう少し分解能が高く間接音の表現力が上がらないものかというもどかしさが有るのも事実です。このような観点からすると光悦製メノウ&ヒスイタイプのようなハイスペックカートリッジではアナログレコードの黄金期ともいえる60年代末期から80年代初頭頃のいわゆるオーディオファイル盤的高音質録音盤あたりの再生に的を絞った方がより一層面白い気がします。
いずれにしても、小手先のごまかしなど一切受け入れてくれないオイロダインKl L439+平面バッフルという類い稀なるスピーカーシステムを使い続ける限り、繊細で残響の長いバロック系の再生において独壇場ともいえる程のリアリティーを発揮するスペシャルバージョン光悦カートリッジを否定することは出来ないのです。


CONNECTION CABLE

アームケーブルからスピーカーケーブルまで数多くのケーブルで接続しなければならないオーディオ装置ではケーブルの材質や構造がとても重要になって来ます。長い間WE系のシルク&エナメル絶縁単線やWEリングコアから外した細めのシルクエナメル単線を奇数本束ねたものを使ってきましたが、装置のグレードが上がるにつれて分解能の高いリッツ構造のケーブルに移行しました。私の装置ではフォノケーブルの長さとMCトランスからプリアンプまでの長さを各1.2m/0.6mに固定し、他の機器間のケーブルの長さを試聴しながら決めました。画像はWE製リッツ線にシルク絶縁を施しシェラック含浸した接続ケーブルです。このケーブルはどこに使っても分解能がアップし誇張感の無い自然な音の傾向になりますが、今回はSELENIUM HT電源からアンプへのDC供給用ケーブル(プリ側 1.2m、パワーアンプ側 0.8m)に3本スタックにして使ってみました。以前5本スタックで使用したAC電源ケーブルでも相当効果が有りましたが今回のDC供給ケーブルではそれ以上の威力を発揮してくれました。
ここで100年も前の銅線がどうして音が良いのかというひとつの疑問について個人的見解を述べてみたいと思います。先ずいえることは、然したる加工技術も無い時代に資源大国が採掘したいわゆるバージン銅で製作したケーブルが一世紀もの時間を経てゆっくりエイジングされ現代に蘇ったということ。バージン銅か再生銅かということも重要な要因のひとつではあるが、それ以上に穏やかに分子配列が整うためのエイジング時間がより重要で、製品化までのスパンが短い現代の製造&消費サイクルではどうあがいても太刀打ち出来ないのではないか。再生銅のヒステリシス効果による分子配列が一層エージング作用の進行を妨げているのではないか。エイジング時間の短縮を目的としたクライオ処理なども音質的にどれだけの効果が有るのだろうか。これらのことを総合的に鑑みると、常にコンサート会場などでの生演奏と対比されることを余儀なくされるアナログレコード再生というセンシティブな世界に限ってという条件付きでは有るにせよ、素材の欠点を技術力で補おうとする多くの試みが必ずしも成功しているわけでは無いのではないかと思わざるを得ないのです。
2024/9/22 上の画像は77A RET(0.1mm×30)と2A INDUCTANCE(0.13mm×30) のリッツ線で、どちらも1本ずつ黒エナメルで絶縁され特殊ワックスで固められ二重にシルクが巻かれています(画像はエナメルを剥離した状態です)。77A RET WIREはアンプなどの内部配線やシェルリード線に最適な太さで、2A INDUCTANCE WIREは主にピンケーブルやSPケーブルに使用しています。
特筆すべきは2Aリッツワイヤー5パラ接続とWATTGATE PLUGとの組み合わせによる電源供給ケーブルでの驚異的音質改善効果だ!



INSULATOR

EMT-930/MC TRANS/PREAMP

←POWER AMP/SPEAKER BAFFLE
このシステムで使用しているインシュレーターやルームチューニング材は全てオーディオリプラス製です。狙っている音の方向性が同じということを前提とするならば、物理振動をコントロールするためのアクセサリーやルームチューニング材の選定は基本的に同一メーカーのものを使用することの方が理にかなっていると思います。私の装置ではカートリッジ用シェルやカートリッジスペーサーから始まって、アームベース周りやモーター支持フレーム、ターンテーブルシートにレコードスタビライザー、進相コンデンサーユニットの台、角型中空アングルラックの足と各棚板の接地面、信号系の全ての機器の設置にオーディオリプラス製水晶インシュレーターを使用しています。その後、皆さんのアドバイスを基に現在は上の画像のように5ヶ所にGR-SSを使用していますが、その効果は絶大なものが有ります。いずれにしても物理振動対策というプロセスが高品位オーディオ再生装置の構築にとって必要不可欠な要素であるということを多くの音楽&オーディオ愛好家の皆さんに実感して頂きたいと思います。


NOISE SUPPRESSOR

電源ノイズや微小信号回路への電磁誘導ノイズなどありとあらゆるノイズがHi-Fiオーディオ再生に悪影響を与えます。私の装置ではEMT 930へのAC供給ライン、PREAMP & POWER AMPへのDC供給ライン、その他にPHONO CABLE、SPEAKER CABLEなど合計7ヶ所にオーディオリプラス製CNS-7000SZノイズスタビライザーを使用していますが、どの接続ケーブルに使用しても音の粗さが無くなり穏やかな傾向の音になります。このような傾向からすると周波数レスポンスがそれ程良いとはいえない装置や少々高域が暴れ気味な装置では本製品の導入によって「音に覇気が無くなった」などの誤った印象を持たれる方もいるかもしれません。数か所に使用してみた経験からするとこの手の音質改善アイテムやルームチューニング材などの適切な使用では間違いなく分解能が上がり且つ大人しい傾向の音になります。


MC STEPUP TRANS

現用のMCカートリッジ用昇圧トランスはWE純鉄リングコアやWE201型コアを使用してリメイクしたものです。入出力端子はWE製を使用し設置用インシューレーターにはAudio Replas OPT-100HG-SS/HR+RSI-M6を使用しています。WE555Wや594Aスピーカーを使用していた20~40代の頃はWE261Bや208PなどにSPUやTYPE-C、FIRCHILD 225A等を組み合わせてジャズやロックなどを楽しんでいましたが、KLL439スピーカーの導入と共にWE純鉄リングコアを使ったMCトランスを使うようになり、ようやくクラシック音楽が聴けるようになったという気がしました。画像右はWE201型トランスをリメイクしたもので、より誇張感のない自然な音楽表現が特徴です。仕事がら比較的多くのMCカートリッジ用昇圧トランスなるものを聴く機会に恵まれましたが、古典的なローコンプライアンス型カートリッジ+パーマロイコア型MC昇圧トランスあたりで情緒的に音楽を鳴らすならそれなりに雰囲気も有りあれやこれやと音の違いを楽しむことも出来るでしょうが、クラシックレコードのオーディオファイル盤あたりを再生した際に音の良いコンサートホールの上席にでも身を置いているかのような気分にさせてくれる程のクオリティーを求めるなら、WE系マイクトランスやライントランスなどの流用や親指の先ほどの小型パーマロイコア型MCトランス辺りでは役不足感が否めないのではないか。WE製コアそのものは材料としてみればとても質の高い(純度が高いという意味ではありません)ものだと思いますが、こと出来上がったトランスとなると30年代後半ごろまでの低透磁率純鉄コア型トランスでは昇圧比を稼ぐため(当時の真空管の増幅度の低さと不良率の高さを考慮するとトランスでゲインを稼ぐ事の方が理にかなっていた?)の策として巻き数を目いっぱい多くした結果が巻線間の浮遊容量や鉄損&巻線抵抗の増大によりナローレンジで現代の音楽鑑賞用には適さないものがほとんどです。しかし、それ以降のパーマロイコア型トランスになると一転高透磁率コアゆえに巻き数も少なくて済みF特も広くなった代わりに減衰特性の良くない高透磁率コアの性質が影響し、歯切れの悪いベールのかかった再生音になり易いという結果になってしまったのです。私たちが求めるHi-Fi再生用MCカートリッジステップアップトランスというアナログレコード再生の根幹を成す重要な昇圧トランスにこれぞというものが無いに等しいという状況を踏まえれば、可能な限り質の良い(ここでは比較的ブロードな磁気特性を有する純鉄コアを指します)コアを使い、そのカートリッジのインピーダンスに適合するものを製作するしかないということになります。

ここでMCトランスのハム対策について一言。
ビンテージオーディオ再生装置の中でもっとも外来ノイズや周辺機器から発生する漏洩フラックスの影響を受け易いトランスはMCカートリッジ用昇圧トランスということになりますが、一流メーカーかどうかの根拠はさて置き、販売網の確立と宣伝効果などによってそれなりの評価を得ているトランスでは、どのような状況下で使用してもそれ程大きなノイズなどの問題が発生しないよう多重シールドを施して製品化されています。それ程でもない音の理由のひとつにこの過剰ともいえるほどのシールドが原因になっているとも考えられます。もちろんそれ以前にコアの材質も含めて透磁率の高いパーマロイ系コア(立ち上がりは早いが減衰カーブが非常に悪い)に髪の毛よりも細いマグネットワイヤーを巻き、ガチガチにシールドを施せば著しく音質が悪化ことは当然といえば当然です。もっとも、それらのことなどメーカーサイドとしては百も承知の上で製作しているはずで、営利目的でそつのないものを製作販売するというメーカーとしての目論見も理解できないわけではありません。しかしながら、これらの一流メーカー製トランスが私達多くの音楽ファンが望んでいるであろう「コンサートホール並みの音で音楽を楽しみたい」という欲求にどれだけ応えられているのだろうかという疑問を抱かれる方も少なくないのではないかと思います。流石に旧態依然とした透磁率の低い大型コアを使用すれば外来ノイズや誘導ノイズに弱いであろうことは容易に理解出来ます。ましてや、オルトフォン用などの1.5~3Ωのローインピーダンスカートリッジ用ではSNの悪化が一層顕著になることは当然です。しかしながら、それでも何とか最小限度のSN対策をしてこの劇的に音楽性の豊かなMCトランスを使ってみたいという熱意にかられ、超古典的なWE製純鉄リングコアや201型ギャップ無純鉄コアを使用したMCトランスの製作に踏み切ったというわけです。このような意図によりトランス内部には全く磁気シールドなどの対策を施していませんので、可能な限り周囲からのノイズを拾わないような環境下で使用することが肝要です。その上で最小限度のシールド材をトランスの外側に取り付けることで実用可能なレベルまでSNを上げることが出来るはずです。なお、ノイズ発生源を可能な限り遠ざけることやノイズ発生源側の電磁ノイズや誘導ノイズを封じ込めるなどの対策をする事の方がより効果的な場合も有ります。特に蛍光灯などの放電管やタンガーバルブ、モーターなどの誘導系を使用している機器からも盛大なノイズが発生していますから、先ずはそれらの対策を講じる必要が有ります。


MCトランスの設置に抜群の効果を発揮してくれたアルミナプレートをプリアンプ、LCR EQ+ATT、MATCHING TRANS、パワーアンプへと一段階ごとに試聴しながら設置してみましたが、結局のところやればやる程どんどん自然な音に近くなって行くことが手に取るように分かるのだから恐ろしい。とはいってもこの変化を目の当たりにしたことが無ければ全くもって理解しがたいであろうことを想像し得ないわけではないが。何はともあれこの状態で何時間音楽を聴いても元に戻す気には全くならないという思いは私ばかりか、今回の試聴実験にも同席して頂いたNさんもほぼ同じ思いだったはずだ!



PREAMPLIFIER

WE 417A-WE 404A-6AB7-INT-4D22pp-6Kpp:600Ω/35W Output Trans の4段構成プリアンプです。比較的大がかりなプリアンプで高圧整流ユニット、高圧電源フィルターユニット、ヒーターDC点火回路は全て別シャーシで構成されています。エネルギーレスポンスが良く実在感とプレゼンス感に優れたハイファイプリアンプの実現には「F特が広くハイゲインで有りながら音楽的SN感に優れた付帯音の少ない前置アンプ」という到達点を目指すことにそれ程異論はないと思いますが、そこがプリアンプ製作のむずかしさでもあり面白さでも有ると思います。確かに微小信号部分を多く含む大規模なプリアンプの構築には、ある程度の経験値や臨機応変な対応力が必要となるのは当然ですが、マランツやマッキントッシュなどの既製品やWestrexやWE系ラインアンプを改造したガレージメーカー製プリアンプなどにこれぞという程のものが皆無という現状を踏まえた上でのチャレンジですから、千里眼的パーツ選びなどの入念な計画性は当然のことながら、長期の継続的構築意欲が必要となることは致し方のないことかもしれません。
それにしても、これほどのアナログブームが到来しているご時世にもかかわらず、オーディオ専門誌や技術雑誌などにこれぞと思う程の真空管式アナログ再生用プリアンプなるものの製作記事が全くといっていいほど掲載されないというのも不可解なことです。嘗てはビンテージオーディオ界の牽引役とまでいわれた日本のオーディオ誌に溢れんばかりの製作記事を投稿されていた諸先輩技術者の皆さんには今一度奮起して頂きたいものです。



LCR RIAA EQUALIZER & 600Ω ATTENUATOR

WE製純鉄リングコアを使用したRIAA EQUALIZERとDAVEN製ATTのロータリースイッチ部分を使用した600Ω型アッテネーターです。ATTはある意味必要悪のようなものですから極力音質劣化の少ない質の良いパーツを使い単純な回路構成で構築すべきだと思います。部品選びということでいえば、有名オーディオメーカーが使用しているとかWEアンプにも使っていたからなどというおおよそ根拠のないパーツ選びはいい加減止めにした方が遠回りせずに済むのではないかと思います。いくら高度な電気技術や回路技術を持ち合わせていても、音楽にそれ程興味のないガレージメーカーの技術屋さんあたりが然したる吟味もせずに選んだ真空管やトランス&パーツなどを並べた程度では、多くの音楽ファンが求めているであろうコンサートホール並みの実在感やプレゼンス感を再現したいという願いなど望むべくもないのではないかと思います。
2024/9/24 LCR EQと600Ω ATTの設置にAudio Replasのスパイクと100HG-FLAT SS HR(50×10mm)を使っていたのだが、最近ここにもGR-SSを使ったら劇的に音が良くなったという悪魔のささやきならぬ貴重なアドバイスを頂いたのだが、GR-SSの予備などそうそう有るはずも無いので、先ずはSPバッフルの後方部分で使っていた50×20mmを外してEQとATTの設置に使ってみた(SPバッフル後方足は100HG FLATで我慢しよう)。結果的には私の装置ではもう少し穏やかな鳴り方の方が聴き易いということも有り、試しにアルミナボード(140×140×1.5mm)を2枚程重ねてみたがこれが非常に上手く行った。
2024/10/7 日頃から親しくして頂いているお客様宅にEMT-927モーターベアリング交換のためにお伺いしたのですが、何と600Ω ATTの設置にGR-SSをお使いとのこと。音楽を聴いてびっくり!これほどの劇的音質改善がATTへのGR-SS設置が全てではないことは百も承知の上ですが、今まで耳にしたことの無いような生々しい美音にはほぼ同様の装置を使っている我が身としては高鳴る胸の鼓動を抑えきれないほどのショックを受けました。これも日頃のルームチューニングや設置方法などの絶え間ないご努力が実を結んだ結果なのだろうと大いに感心させられました。


MATCHING TRANS


こちらはパワーアンプに接続するマッチングトランスとして製作したものです。私のアンプはプリもパワーも比較的ハイゲインなためトランスのレシオ比を高く取る必要がありませんので5倍程の昇圧比(600Ω:15KΩ)で製作しました。このトランスのコアはWE201型インプットや61A/B RETなどを解体したものです。今回はケースによる音の違いを確認するためにWEトロイダル型トランス用鉄ケースに封入してみました。このトランスの最も魅力的なところはF特が広く誇張感のないニュートラルな音楽表現をしてくれるところです。入力系トランスについて少し余談になりますが、インプットトランスではレシオ比を大きくしたもの程トランス特有の癖の強い音の傾向になります。L分によって構成されるインピーダンス変換回路では真空管増幅のような直線性の良さやフラットな周波数レスポンスを持っているわけでは有りません。それはしばしばトランスの2次側を純抵抗でシャントしてF特を平坦化する必要が有ることが、如何にトランス自体がフラットな特性を有していないかを表す根拠のひとつです。ちなみにWEなどの古典アンプ(主に劇場用アンプ)ではインターステージの2次側をシャントしない場合も有りますが、内部抵抗の高いひ弱な球でドライブする場合や高域特性のそれ程良くない装置において特定の周波数帯を持ち上げることで人の声などの明瞭度を上げようと意図している場合も有ります。嘗ての技術誌などではインターステージトランスの二次側を純抵抗でシャントする必要が無いトランスがさも優秀かのようなくだりが有りますが、ひ弱なドライバー管との組み合わせでは十分なドライブ電圧が得られにくいことから、特性が悪くなることは承知の上で敢えて昇圧比を大きくし、スイング電圧を確保するという必然性により二次側をオープンとせざるを得なかったという回路設計上の都合によるものだと理解出来ます。いずれにしても、このような意図的な周波数特性のイコライジングが、本来私たちが目指すハイフィデリティー再生に対する考え方とは少し違った方向だということも認識した上で可能な限りフラットなレスポンス特性を持つ再生装置の構築を目指さなければならないと思います。


POWER AMPLIFIER


本アンプは新しく製作し直した6AB7-6AG7-INT(WE201 CORE)-4D32pp-5Kpp:0-8-16Ω/50W Output Trans の3段構成で+B供給用電源には371Bと705Aをパラレル接続にしています。4D32というパワー管の凄いところは、一般的な認識として「図体の大きな球は大雑把な音がする」という定説をいとも簡単に覆してくれるだけのF特の広さと繊細さ、緻密さ、エネルギーバランスの良さなど、音楽再生に必要な増幅管としての全てを備えているかのような気にさせてくれるところです。もちろん前段を構成している2本のメタル管も並みの電圧増幅管ではありません。内部抵抗が高くプレート電流が僅かしか流せないWE系ST型電圧増幅管や音の粗いマグノーバル管、双3極管特有の混濁感が我慢ならない396AやX7系などは元々選択肢に有りませんが、比較的マトモな音のするKEN-RAD 6C5(METAL管)や6SN7GTなどの3極管がことごとく寝ぼけて聴こえてしまう程本機に使用しているKEN-RAD6AB7や6AG7の3結は色付けが少なくパワフルでシャープな名刀の切れ味のような音がします。要約すれば物理振動が少なく直線性に優れた単5極管を3結で使用することで、並みの3極電圧増幅管とは桁違いの広帯域特性と強力なドライブ能力を兼ね備えた前段増幅回路を構成することが出来るということなのです。ちなみに、ドライブ段に内部抵抗の高い球を使用した場合パワー管よりも先にドライバー管がクリップするなどという笑うに笑えない結果にもなりますから電圧増幅段のゲイン配分や使用球には十分な配慮が必要となります。WE系アンプのように同じ真空管を前段に使用する目的は業務用としての管理の容易さと現代のオーディオソースよりも遥かにダイナミックレンジの狭いフォトセルなどの微小信号を扱うことを目的としている為であることから現代のオーディオ再生装置としてWEアンプを模倣製作する際は十分考慮すべきことと思います。かといって嘗て雑誌などを賑わせたことも有るドライブ段にパワー管を持って来るなどという回路構成では一聴して馬力が有るかのように聞こえるが、音が粗くて聞くに堪えないというのが私の感想でした。このことはインターステージトランスの一次側に直流を重畳して馬力が出たなどと誤解をしているのと似ているかもしれません。なお、本アンプで使用している6AB7や6AG7のG3はカソードに接続していますが、一般的な真空管アンプ製作記事などに掲載されることの多い6J7や6SJ7、WE310A、348AなどのG3をプレートに接続する回路では明らかにドンシャリ的な音になります。


INTERSTAGE TRANS

今更ながらですが位相反転トランスについてあれこれ書いてみようと思います。プッシュプルアンプの構成に不可欠な位相反転回路に使用するインターステージトランスについてはベテラン真空管アンプビルダーの方々の間でも下手なものを使うくらいならCR結合(オートバランス型やカソード結合型)等(PK分割は論外なのでここでは多くを述べません)の方がF特が悪くならずに済むという考えが比較的浸透しているように思いますが、ある意味それだけガレージメーカー製を含めた市販品に質の良い位相反転トランスが無いということなのかもしれません。しかしながら、正確な位相反転とパワー管のグリッドインピーダンス上昇によるグリッド電流の防止という観点からすればトランス式位相反転ほど理にかなった方法はないということの現実を考えれば何とかしなければなりません。私の場合にはほとんどのアメリカ製インターステージトランスを試してみたがどれも音が粗くF特の悪い今一つパッとしないものがほとんどでした。それはWE264Cや247H、233H、285系なども同様で音楽鑑賞用に耐え得るほどのものではないので諦めた経緯も有ります。画像右は超古典的ともいえるWE初のインターステージトランス201E(10K:150K)です。20年ほど前に一度ペアで手に入れたことのある201Eでしたが、あの頃はそれほどまでに気にかけていなかったのか使わずじまいでした。その後4D32ppアンプを製作する際に使用していた221 RET型インターステージトランスから201型コアにしてみようと思い立ったのがこのトランスを使うきっかけでした。オリジナルのままではどうあがいてもHi-Fiアンプには導入できないということならば致し方ない、幾ら貴重なトランスでも使ってなんぼの話なのでコアを取り外して巻きなおしてみようというこでリメイクにチャレンジしてみたのだが、意外にも標準的な10K:40K(1:1+1)で一次二次共に二分割逆ターン巻きで製作してみたら抜群に良い音がした。最古のWEコアで製作したトランスがこれほど素晴らしく良い音がするというのも技術の進歩という観点からみれば如何なものなのかとは思いますが、ひとついえることは、60年代ごろまでのアメリカ製トランスの音の良さは材料の良さが際立っているが、それとは裏腹に国産トランスの粗悪な材料では如何に高度な技術をもってしてもプレゼンス感溢れる音楽性豊かなトランスとまではならないというのが私の実感です。とはいえ何もトランスだけで音の良し悪しが決まるわけでもないので、トランスにだけこだわっても良い音のする装置が完成するわけでも有りません。時にトランスの二次側をシャントする1本の抵抗の良し悪しが装置全体の音を左右することが有るという微細な音の変化を見極めることのできるセンシティブな装置でなければ音の良いアンプの構築には繋がらないと思います。


Kl.L439 SPEAKER SYSTEM

以前からそのうちに時間が出来たらやってみようと考えていたオイロダインスピーカーの置き場所の変更を近所のNさんの手を借りてやっと実現することが出来た。スピーカーシステムの移動に伴い色々と改善の余地が見つかりここ数日間に渡り悪戦苦闘を強いられてきたが、やっと落ち着いた音になった矢先「いずれやることになるだろうがこの暑さの中でやるほどのことでも有るまい」などとスピーカーバッフルを設置している床に以前のように15mm厚のファブリックボードを敷こうかどうかの迷いがあったのだが・・・先ずは参考までに15mm厚で1m×40Cm程のファブリックボードをバッフル前方のGR-SSの下に設置して効果のほどを見てみようということになった。結果は予想を覆すほど中高域のクッキリ感が増し抜けの良さも抜群で、もはや躊躇している場合ではないという結論に至った。それにしてもこの暑さの中150Kg程も有る2枚のバッフルと50Kgは有ろうかという重さのアイソレーショントランスの二度に渡る移動は困難を極めた(というのはちょっとオーバー)。しかしながら近所のNさんのお力添えも有りその苦労もものの数分で報われることとなった。使い過ぎ感のある劇的変化という言葉だが、ここで使わなくてどうするというほどの劇的変化だ。


Kl L439の設置にGR-SSとファブリックボードの間に1.5mm厚の高純度アルミナボードを敷いてみたところ全く分解能が落ちずに劇的に穏やかな音になった。ここ数日間音楽を聴きながらあの場所にアルミナボードを一枚挟んだらどうだろうか〜などという思いを抱いていたのだが、そんな折またまた近所のNさんに手伝ってもらえるチャンスが有ったので早速やってみました。結果としては、この程度の試みでアンプを変えたほど激変するのですから何とも恐ろしいことになって来ました。
このところ数回にわたってチタンネジへの移行作業をやって来たが、最近やっとのことでM8×100mmというチタンネジを手に入れバッフル取付ネジの全てを入れ替えることが出来た。音的には時間が経つうちにどんどん誇張感の無い普通の音へと変化して来た。ここでも伝送速度の早い硬くて軽いチタンという材質が効を奏した結果だろうと思わざるを得ないが、やはり物理振動処理スピードの速さの成せる技かと改めて実感させられた次第です。


SPEAKER NETWORK


オイロダインを導入するにあたってネットワークは最初から自分で製作することが前提に有りました。オリジナルネットワークのインピーダンスは12Ωですが、KL406のインピーダンスが7.5ΩでKL302が12Ωということでインピーダンスマッチングを取るためにウーハー側にマッチングトランスを使用して12Ω:7.5Ωとしているが、このオートトランスが音を悪くしている要因にもなっている。それならばということで、KL406を8ΩとみなしKL302の高域減衰用抵抗とボイスコイルインピーダンスを合成抵抗としてー7db減衰時のCとRを算出し単純な6db/oct -3db クロスとした。LにはWE針金コアとWEリングコアから外した黒エナメルワイヤー7本撚りを使用し、Cには積層セラミックをシリーズ接続、RにはSPRAGUE BLUEJACKET 10W型巻線抵抗をパラレルで使用した。入出力端子はアメリカMillen製セラミック型で配線材にはSPケーブルと同様のWEリッツワイヤーをシルクテープで絶縁しシェラックで含浸したものを使用しています。残念なことでは有りますが、オリジナルネットワークの回路構成やパーツの良し悪しがこのスピーカーの過小評価に繋がっているという側面も有るのではないかと思っています。


ISOLATION TRANS & POWER OUTLET

200V⇔100VアイソレーショントランスにはWESTERN INC製(5KVA)とアメリカ製トロイダル型アイソレーショントランス(1.5VA)を使用しています。各アンプのヒーター回路やEMT-930のモーター駆動用にはのトロイダル型から供給し、その他の高圧整流ユニットへの供給にはWESTERN INC製を使用しています。それ以降の電源タップにはオーディオリプラス SBT-4SZ/HG-MK2SRとSBT-4SZ-MK2SRを使用していますが、このパワータップのOutletは2基ともWattgate 381 RH evoに変更してあります。全ての電源用接続ケーブルにはWE2A LITZ WIREを電流容量に合わせてパラ接続で使用しWattgate 330 RH evoを通して各機器に供給しています。



アメリカからMARINCO社製コンセント類が届いたので、早速試してみようということで先ずは単相200V壁コンと200V入力アイソレーショントランスの接続に125V/250V-50Aという恐ろしく頑丈そうなINLET & CONNECTOR(画像左)を使ってみた。音的には特筆すべきところが有るとは感じないが(交換してすぐに「凄い」などと思うもの程3日も経つと「何だかちょっと違うぞ」ということになることが多い)、これだけガッチリした作りであれば精神的安心感にも繋がるのではないかと思う。実用的にはここまでの大容量が必要なわけではないので30Aクラスで十分だろうと思うが、流石はアメリカMARINCO社製で今まで使用して来た国産CSE製200V用プラグ&レセプタクルが貧弱に見えるほど素晴らしい作りだ。やはりこの手のものはアメリカ製に限るとまで断言しておこう!ちなみに、この部分の接続にも2A リッツ線を7本スタックで使用しているが、音の良さはこのケーブルに依存しているところも相当あるのではないかと感じている。


FULL-WAVE SELENIUM RECTIFIER HT SUPPLY

以前からプリアンプのヒーター点火について色々と実験しては来たのだが、今回改めて両波整流型DC点火をテストしてみることにしました。元々、当店のプリアンプやパワーアンプは増幅部本体と電源部本体、HV電源の3台のシャーシもしくはHT電源を独立させた4台で構成されていますので、一般的なアンプからすればスペースファクターの悪さは特筆もんで、その上新たに巨大LR独立HT電源なるものを加えるというのは流石にちょっとやり過ぎだろうと思っていたのですが、しかし、今回変更するアンプは6BX7pp構成のプリアンプですのでL/R共通回路で良いのでまだマシかというところで早速完成した電源ユニットをお客様のお宅に持ち込み試聴してみました。なんと傍熱管プリアンプのヒーターDC点火回路を変更しただけで装置が別物になってしまった〜いやいやそれはちょっと言い過ぎですが、そのくらいの表現をしたくなるほどの劇的な音質改善効果は想定外でした。つい先日、4D32ppタイプのプリアンプをご愛用頂いているお客様からのご依頼により製作したLR独立型DC点火ユニットを接続し試聴させて頂きましたが、同様のもしくはそれ以上の効果を実感することが出来ました。WEダイオードと整流回路の変更だけでこれだけの音質改善効果が有るのなら、古くからフィールドスピーカー用励磁電源や光電管エキサイター、バッテリーチャージャーなどに使われたタンガーバルによる両波整流も試してみる必要が有るのではないか?という誘惑にもかられますが、6.3V-8ADC以上にもなる電源2系統をタンガーバルブを使って点火するとなると、今でさえも発熱との戦いになってしまった感のある我オーディオ装置にこれ以上世の省エネムードに逆行するような悪行?は厳に慎まなければ〜と我に返ったところで、それなら熱エネルギーによって電子の移動を促す必要のないセレニウム素子による整流ならどうだろうか。こちらは4D32ppパワーアンプ用なので手っ取り早くシングルチョークで実験。音質は何も言うことが無いといえるほど素晴らしいものになりました。例えれば、今まで使用していたWEダイオードの両波整流が高級デジタル一眼レフの細部までクッキリと見渡せる超リアリティーな表現だとすれば、今回のセレニウム整流は細部まで見渡せる繊細さとリアリティーはそれ程大きくは変わらないが、もう少し自然なボケ味のアナログ中判カメラのような穏やかで優しさを感じさせる音、敢えていうなら一層コンサート会場の音に近づいたような気分にさせてくれる音という感じがします。遅きに失した感の有るセレニウム両波整流チョークインプット回路の導入からスタートしたHTDC点火回路の再構築化でしたが、結果的にはアメリカ製ALUMINA CERAMIC PLATE & CERAMIC TERMINAL STRIPによる物理振動対策とCERAMIC CAPACITORによるフィルター回路のハイスピード化が功を奏したのではないかと思います。


HIGH VOLTAGE +B SUPPLY

一般的な真空管式オーディオアンプでは両波整流管1本で電源供給をしているものがほとんどですが、当店で製作するアンプでは必ずといっていいほど複数の整流管を使用しています。以前の記述内容と重複する部分も有るかもしれませんが改めてB電圧電源について述べてみたいと思います。個人的にも20〜30代頃まではWE274A/Bや280(ナス管)が最も良い音のする整流管と思い使い続けていた時期も有りました。その後WE 46アンプなどを使い始めると直熱3極管205Dを2極管接続にして半波整流管として使っているのに驚き、何故このような使い方をしているのか?と思いきや何のことはない内部抵抗の高さが整流ノイズ抑制効果としての役割も果たすことと、緊急時のスペア球の確保が容易という理由だったのではないかと考えられます。もっとも、整流管製造の難しさもさることながら、内部抵抗の高い205Dなどの直熱3極管を整流管として使用すれば当然ながら音も良いということで一石二鳥とはこのことだと納得しました。その後に開発された274A/Bや280などもオキサイド型両波整流管の中では比較的内部抵抗の高い整流管ということでそれなりに素性の良い整流管といえますが、それはあくまで一般的なアンプに使用する標準的なという意味でのオキサイド型両波整流管に対する評価であって、トリタン型整流管371Bや705Aなどの付帯音の少ないハイスピード半波整流管との比較ではありません。オーディオアンプの質的向上を目指すプロセスの中でほぼ間違いなく電源回路の不備がネックになることは多くのベテランオーディオ愛好家諸氏が痛感されているであろうと思いますが、願わくばタイミングを失することなくヒーター点火方式を含めて電源の重要性を再認識して頂ければと思います。さて、一般論はこのくらいにして、当時の受信管(ラジオや家庭用電蓄など)としての使用ではオキサイド型両波整流管1本で十分な性能を維持できたということのようですが、はたして強大なダイナミックレンジを有する現代のHi-Fi オーディオ装置にもそのままの形で採用するだけで十分なのだろうか。例えばひとつの例として、通常の管球式オーディオ装置で音量を上げていくと低域が膨らみ中高域の分解能が落ちて刺激的な音になってしまう症状は電源の供給スピードが間に合っていない状態に有るのではないか。この現象はパワー管が金魚鉢の金魚のように酸欠状態になっているのに似ていると考えられます。逆に満ち足りた電源によって構成されたアンプでは、それ程音質的評価の高くない真空管でも意外に充実したサウンドが得られることが多いものです。私が好んで使用するトリタンフィラメントを持つ高真空型半波整流管は、高温で熱せられた熱電子がハイスピードで増幅管にエネルギーを供給できるため金魚のような酸欠状態にはなりません。したがって、比較的広いリスニングルームでコンサートホール並みの音量でスケールの大きな音楽を再生しても低域が膨らみすぎることや刺激的な高域になることも殆どありません。要するに音量の大小によって周波数レスポンスや分解能がほとんど影響を受けないという安定感の有る再生音はレスポンスの良さを含めた電源の質に依存しているということなのです。このことはジャズなどの単一音量で比較的編成の小さな音楽ならいざ知らず、クラシック音楽などの繊細で変化に富んだ音圧レベルの演奏を再生する上では大変重要なファクターのひとつだと思います。ご自身のリスニングルームがちょっとしたコンサートホールに早変わりしたかのような気分で音楽を楽しみたいと願う熱烈な音楽愛好家の皆さんには是非ともトリタン整流管+チョークインプット電源回路の素晴らしさを実感して頂きたいものです。

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